2014年11月21日金曜日

熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」に参加した④ これからは、「学ぶ意欲のある人」にだけ「学ぶチャンス」が与えられるようになっていく?

自分メモとして、オルタナブログと同じエントリーです。



熊大の「ID」講座は、先日の日曜日、11月16日に東京工大の芝浦のキャンパスで開催されたのですが、実は、後編(実践編)が控えています。2015年1月25日に同じ会場で開催されます。

で、ですね。 この後編に参加するための事前課題があるのですが、昨日、どどーんと届きました。まずは、メールでファイルが添付されてきて、それに対する「これをやってね」指示。

作成した成果物は、サイボウズLiveにアップしてね。皆でお互いに見えるようになっているから、業種、業界、職種関係なく、ほかの方の成果物も見ておいてね、とのことでした。

そして、1月の「ID」後編は、こうやって参加者が事前に提出した課題を使ってのワークショップになる模様です。

こうやって、全国の参加者が、ネット上で課題を共有できるのですねー。すごい時代ですねー。

と感心しながら、ふと思ったのです。

「これ、学習意欲が高い人でないと成立しないな」

と。

私は、とても今熱心にIDの勉強をしているので、もちろん、事前課題はわくわくしながら取り組もうと思っていますけれど、これが会社からお仕着せの研修だったりすると、そうそうやらない人もいるんだろうなぁーと思ったり。

そういえば、このID講座の後、鈴木克明先生を囲んでの懇親会がありまして(居酒屋で)、20人以上が参加したのではないかと思うのですが、お隣に座っていた製薬会社の人財育成担当の方からこんな話を聴きました。

「うちは社長の方針で、階層別研修や必須研修をぜーんぶやめてしまいました。開催したところで、受け身で参加する人が多いし、大して学ばないし、こんなことにお金使うこともない、と。その代り、学ぶ意欲のある人、伸びしろのある人に投資しよう、ということになりまして」
「なるほど。たとえば、3年次研修で20人集めて1-2日トレーニングするのに100万かかる。けれど、それで熱心に学び、仕事に役立てる人は数えるほどしかいない。事前課題もやってこないし、研修中も抜けたりして、ちゃんと聞いていないとか・・・。同じ100万なら、”これを学びたい!これを仕事に活かしたい!”と自らやりたいことを言い、”投資してくれー”と訴えてくる2人に50万ずつ投資したほうがうんといいって、そういう感じですかね?」

「そう!そう! まさにそう! 社長がそう言ってますし、ボクもそう思うんです!」

・・・・。

実際、こういうことをおっしゃる経営者は増えているような気がします。人財育成は必要だが、予算も限られている。以前は「福利厚生」的要素があったかもしれないけれど、今はどちらかというと「投資」として考える。「投資」と考えるならば、「投資」したことが「回収」されなければならない。だから、価値ある「投資」先に「投資」したい・・・。

これからは、誰にでも一律に学ぶ機会が与えられるのではなく、「学ぶ意欲」のある人にはチャンスが与えられ、「学ぼう」としない人には、チャンス自体も巡ってこなくなり・・・。という風になるかもしれませんね。

そういう意味でも、動機づけモデルARCSは、学習提供者が教材開発や研修実施に役立てるだけではなく、学習者自身が自分の学習意欲を高める、駆り立てるために適用する、という考えは、深く納得なのでした。

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熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」に参加した③ ARCSモデル(学習者の動機づけモデル)

オルタナブログと同じエントリーです。



2014年11月16日(日)に参加した熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」の受講レポート第三弾。

今回は、学習者の動機づけモデル「ARCS」について。

ARCSは、ジョン・ケラー氏によってモデル化されたもの。

Attention(注意喚起)
Relevance(関連性)
Confidence(自信)
Satisfaction(満足)

の頭文字を取って「ARCS」(アークス、と読みます)。

Attention:何だろう?何をやるんだろう?面白そうだなぁ!と学習者の注意を引く
→ たとえば、研修タイトルに「おや?」と思わせるようなキャッチーなキーワードを入れる、とか、エピソードなどを交えて進める、とか。

Relevance:やりがいがありそうだなぁ。これが仕事にこんな風に生かされるのだろうなぁと関連性を感じさせる
→ 何のためにこの学習があるのか、どう実務に結びつくのかを実感させたり、自分のペースで自分のやりたいように学習できるようにしたり。

Confidence:やればできそうだなぁ。できる!できるぜー!と思わせる
→ 「出口」を明確にした上で、「おお、できた!」という成功体験を積み重ねられるようにしたり。
Satisfaction:やってよかったなぁ。努力が実を結んだ、次も学ぼう!と思わせる
→ やったことが無駄にならなかった、達成感を味わえたり、褒められたり。


この4つのキーワードに当てはめて、「学習者の動機付け」をするといいよ、という考え方です。

ケラー氏は、このモデルを作るにあたって、数多くの動機づけ理論を調べたそうです。そして、ARCSに分類してみた。その後、今度は、実務家などの「ノウハウ」をまた調べてみて、やはり、実務家が言う「動機づけの仕方」もARCSで収まる。うん、じゃあこれで「ARCSモデル」ってことでいいよね、となったとのこと。

ただし、まだまだ進化中なので、ケラーさんが書いた本にも「現時点でまとめているものを本にするね」ってなことが書いてあります。(以下の書籍リンク参照)

私はこの「ARCSモデル」を長らく、「研修提供者側」「教材開発者側」が使うモデルだと思っていました。

しかし、この講習で、鈴木克明先生は、「学習者側にも”ARCS”の視点で学習を考えてもらうといい」とおっしゃいました。

つまり、学習者自身が「どうすれば”面白そうだ”と思えるか」「どうやれば”やりがい”を感じたり、”自信”が得られたりするのか」「どうやって”満足”すればいいか」を考え、工夫してみたらいいのだ、と言うのです。

この「学習者視点」でのARCSモデルの適用について、これまで一度も考えたことがなかったので、うぉぉぉ! 目から鱗100枚!と心の中で叫びました。

鈴木先生は、この講習の中で、何度もこうおっしゃっていました。

「人に教えるって、何が目的なのか。それは、”自分で学ぶ人”を育てることでしょう? 教えて、その結果、受け身の人を作ってはダメなんです。 教育の目指すこととは、”自分で学ぶ人”を育てること。」

だから、ARCSだって、学習者視点で活用すればよい、ということなのですね。

言われてみれば当たり前なのだけれど、教える側、教材や研修を提供する側の視点で「自分たちが何をするか」ばかり考えていました。

学習者が自ら学習でき、主体的に学び続けられるようにするための”ARCS"。

この考えを得ただけでも、参加してよかった、と思ったのでした。

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ケラーさんの本。ちょっと難しいですが、面白いです。

熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」に参加した② 出口と入口。

自分メモとして、オルタナブログと同じエントリーです。



熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」の報告第2弾です。

IDは、教育活動の”効果”と”効率”と”魅力”を高めるためのシステム的アプローチである、ということはエントリー①で書きました。

で、大事なこと、というか、コアになることは、まず「教育活動(たとえば研修)の”出口”と”入口”」をきちんと明確にする、ということです。

入口 → 教育プロセス(というか成長プロセス) →  出口

と流れで見た場合、学習者は、「現時点でどういう人か」「どういう人を対象とした学習なのか」を明確にするのが”入口”のお話。

「何がわかっていて、何がわかっていないのか」
「何ができて、何ができないのか」

ここをはっきりさせて、「こういう人がこの教育活動(メンドクサイので今後は簡単に”研修”と書きます。研修が教育活動のすべてではないのですが)の対象者」なのか、研修提供者側も学習者側もわかるようにしておくこと。 これが”入口”での定義です。

たとえば、料理教室で「市販のルーを使った初級者用カレーライスの作り方」を学ぼうというとき、「包丁も使ったことがない」「ジャガイモと人参の違いも判らない」という人が来てしまうと困るかもしれない。

一方で、市販のルーでは飽き足らず、自分でスパイスを混ぜ合わせて凝りに凝ったカレーをすでに作っている人がこの教室に来ても、「ううぅ、こんなこと、とっくに知っている」と思うでしょう。

だから、「市販のルーを使った初級者用カレーライスの作り方」教室では、

「何を知っているか」
”野菜の種類を区別できる”
”包丁を握ったことがあり、野菜などを切ることができる”
「何を知らないか」
”カレーライスは作ったことがない”
”市販ルーでカレーライスを作ったことがない”

という風に学習者の前提を定義することができます。

この”入口”を教室の募集要項に書いておけば、「来るべき人」が来なかったり、「来なくていい人」が来てしまったりということは避けられるはず。(完全に、とは言いませんが)

だいたい、自分でスパイスを混ぜちゃう人が来た場合、料理教室の数時間はとても無駄になってしまうので、その上級者は、もっと上級のクラスで学ぶか、それとも違うことに時間を使ったほうがよい。

(企業の研修でも同じことが言えます)



次は、”出口”です。

この研修を参加し終わった時点で、「どうなっているのか」を明確にするのが”出口”です。

研修をすればすべての問題が解決する、なんてことはありません。
研修で目指すことは「ここです」という線をきちんと明確にします。

「カレー教室」で言えば、
”市販ルーを使って60分以内に一人でカレーライスを作れるようになる”
というのが”出口”ですよー、と定義するわけです。

この初級者用カレー教室では、あくまでも”市販ルー”を使うことができるようになるまでを目指すので、”スパイスを自分で調合する”といったことはできるようになりません。

”入口”と”出口”は、研修の責任範囲というか、取り扱う範囲を明確にすること、なのですね。

研修を提供する側にとっても、「ここからここまでがこの”研修”のカバー範囲、責任範囲です」とスコープを明確にできるというメリットがありますが、学習者にとっても、”入口””出口”の考え方はとても重要になってきます。

受講の前提を「不足」という意味で満たしていない人が参加したら苦しむわけですし、
受講の前提を「過剰」という意味で満たしていない人にとっては時間の無駄になるわけですし。

”出口”を明確に示してくれれば、今の自分の実力と”出口”とのギャップが学習者自身にも理解でき、「もうちょっと勉強しよう」とか「この部分を強化しよう」などと、自分が学ぶべきこと、練習すべきことも自覚できるようになるはずです。



ID(Instructional Design:インストラクショナルデザイン)で、とても大事なキーワード”入口”と”出口”。

研修を企画したり、設計・開発したりする際、この2つをきちんと定義することから始めるのがとても重要です。


もちろん、このIDは「理論」「理屈」ですので、現実はそうもいかないことが多々あります。

「階層研修で、うちの会社の伝統的なイベントでもあるので、前提は異なる社員が一同に会すことになっているんだよね」

とか

「日程的、予算的に、”基礎””応用”という順番で受けられないので、前提条件を満たしていなのは承知の上で、”基礎”をすっとばして”応用”に参加せざるをなかった」

とか。

今回の「ID」の公開講座でも、鈴木克明先生がこんな感じのことをおっしゃっていました。

「IDは理屈です。研修には、”受講者の特徴や与えられた研修環境やリソース”といった制約ももちろんあり、そういう制約がある中で、どうデザインするか、ということを考えるのですよ」

「デザインがないといきあたりばったりになりますが、デザインがあれば、デザインした中から、あれこれ工夫ができる」といったこともおっしゃっていました。

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【「インストラクショナルデザイン」といえば、ガニェさん。この本は、ガニェさんのもとで学んだ鈴木先生が翻訳に携わり、恩返しできた!と思われたとか。 で、すごく難しいです。私も関連個所を必要な時に拾い読みする感じ・・・。でも、ID全体をまとめた本といえばこれが代表的1冊かな。】

熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」に参加した① 「ID」とは何か。

自分用のメモとして、オルタナブログと同じ内容とこちらにコピペしておきます。


人材育成に携わる人間にとっては憧れの鈴木克明先生自らが教えてくださるという・・。定員40人しかないという・・・。前編後編で8700円!という・・・。このチャンスをゲットせずして、どうする、私。

鼻息荒く、インターネットから申し込み、登録できました!

昨日2014年11月16日(日)、東京工業大学キャンパスイノベーションセンター(田町)で朝から晩まで勉強しました。ナマ・鈴木先生にもお目にかかれ、ミーハーな私はコーフンしました。

それにしても、凄い熱気。

日曜にお勉強しようという時点で「学習のモチベーション」は高いに決まっていて、その証拠に前から席が埋まっていくのです。私も前から2列目に陣取りました。

申し込みが多数で少しは断ったそうですが、それでも60人くらいが集まっていました。

内訳は、

●医療従事者 16% (医師、看護師、薬剤師など)
●大学教員など大学関係者 50% (全国から大学の先生が集まっていましたねぇ)
●企業 27%
●日本語教員 7%

となっていました。(医療従事者のID熱は以前から高く、熊本大学大学院でも医療従事者がとても多いと聞いていますし、私も以前、とある総合病院の看護師さん向けに”ID”を軸とした研修を提供したことがありますが、臨床の現場にいる看護師のみなさんの熱心なことには驚かされたことがあります)

午前中は、鈴木克明先生による「ID」基礎知識に関する講義、
午後は、鈴木先生のお弟子さんたちによる「事例」を使ったワークショップ。

盛り上がりました。 Q&Aも次々質問が出て、その質問を聴いているだけでも勉強になりました。

今回から断続的にこのブログでこの「ID」の勉強会について報告していきたいと思います。(「ブログを書くまでが研修です!」と言いますね)


まずは、「ID」とは何か。

Instructional Designの略で、教育の「効果」と「効率」と「魅力」を高めるためのシステム的アプローチ、です。

では、この3つのキーワードが意味するところは何か。

●「効果」・・・ 学び手の「実力がついた」!ことを指します。 働く大人であれば、仕事の能力が向上するなどが「効果」ですね。

●「効率」・・・ 「効果」を上げるためには何時間でも何円でも掛けますよ、などと悠長なことは言っていられないので、できるだけ、「効率よく」実力がつく(=効果が上がる)ことが望ましいわけです。 だから、集合研修だけではなく、eLearninngを使うのか、あるいは自学自習のためのもっと異なるアプローチを使うのか、なども検討しなければなりません。

●「魅力」・・・ 実力はついたけど、ああ、二度と勉強したくないわーと思うようでは、能力向上がそれ以上見込めないので、「もっと勉強したい」「継続学習したい」と思える内容や方法であることも必要です。 「ほぉ、そうだったんだー!」と気づいたり、「成長できたなぁ」と実感できたり、と楽しく学べることも目指して教材を作ったり、研修を進めたりすることも重要なのですね。


IDには、代表的なモデルとして、「ADDIEモデル」というものがあります。

Analyse→Design→Develop→Implement→Evaluate。

分析→設計→開発→実施→評価。

システム開発でも建築でもおよそ「ものづくり」では共通の考え方ですよね。

このADDIEモデルのような、IDプロセスには根底に様々な理論があります。

学習理論、コミュニケーション学、情報学、メディア技術などなどITプロセスを下支えするものが多々あって、その上でIDプロセスが成り立っているのです。


そして、IDで大事なのは、「出口」「入口」(この二つはしつこいくらいに言われます)、「構造」「方略」「環境」の5つ。この5つの視点があることで、よい教育になっていく、のだそうです。

このあたりは、また別の日に書きたいと思います。


事前にIDに関連する書籍は読んでいたので、ついていけましたが、いくら「基礎講座」とはいえ、全く予備知識ない状態だと結構きつかったかなぁというのが感想です。それにしても、1日で「たくさんの目からうろこ」が落ち、休日返上で参加してよかった、としみじみ思います。



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【鈴木克明先生が最初に出された本がこれだと思います。ご本人曰く「ID」的工夫はこの1冊にすべて盛り込んだ!とのこと。自主学習教材を開発するというストーリーを軸に「ID」をわかりやすく解説していて、初心者がとっかかりとして読むには最適です。】