2011年3月30日水曜日

社内講師の心得(4) 受講者を「お客様」にしてはいけない

もう入社式は、あさって、と、すぐそこに迫ってきました。

社内講師の心得シリーズ。これは、新卒新入社員の研修を担当する方だけでなく、誰でも応用が効く話を書いているつもりです。ベテラン社員の研修担当者であっても、基本は同じですから。

今日は、「受講者を”お客様”にしてはいけない」というお話です。

新卒新入社員の場合、特にそうなりがち、なのが「お客さん化」です。

学生から社会人になったばかりなので、「学生の時の学習」と「企業での学習」の違いがよくわからない。わからないから、「受け身」になっていく。受け身になった上で、「お客さん化」していく。

たとえば、

●教室のレイアウト(机や椅子の位置や間隔、向きなど)は、「誰か」が整えてくれるもの、と思っている、あるいは、思ってしまう
●ホワイトボードが見づらい、配布資料が足りない、など、ちょっとしたことに対して、講師や人事部の方が「気づいてくれる」ものと思っている、あるいは、思ってしまう
●人事部の方や講師が重たい荷物を持っていても、ただ見ている。見ていても「手伝おう」などと気が回らない

といったような感じ。

自分の「不利益」(ホワイトボードが見えない、席の角度が気に入らない)に対しては、「誰かがなんとかしてくれるだろう」と思う一方で、他者に対しては、手を差し伸べることはあまりない。(講師の荷物を半分持ちましょう、とか、他の受講者が困っていたら、助けてあげましょう、とか)

全員がそうなるわけではないのですが、「受講者の”お客さん化”」は、少なからず発生する現象です。

自分が動く、自分が何かすれば、状況を変えられるにも関わらず、何もしない。そして、日報などに「ホワイトボードが見えなかった」「教室が寒かった」などと書く。

書かれた側もより厚いサポートをするようになる。

これ、よくないのですよね。

自社で仕事をするための基礎を学ぶ「新入社員研修」では、受講者とは言えども、新入社員は既に「仕事」をスタートしているわけです。(だって、お給料は発生しているのですから)

そうすると、ただ、口をパクパク開けて、「餌を口に放り込んでくれるのを待つひな鳥」のような状態になっていくことは極力避けなければならない。

では、誰が彼らをそうさせてしまうのか?

実は、新入社員が自然にそうなる面よりも、講師や人事の方がだんだんそうさせていくことのほうが大きいような気がします。

「日報」に「寒かった」「ホワイトボードが見えづらかった」と書かれたら(その日はもう終わっているので、問題の解決にはなっていないのに)、翌日、「ゴメンナサイね。今日は、暖かくしますから。また、寒かったら言ってくださいね。」と謝って、より気を遣うようになる。人事部や講師陣に「寒いようなので、配慮してあげてください」と伝令が回る。

いや、それはいいのですが(人事や講師などが配慮することももちろん大事ですから)、その時、「でも、日報に書いても、その時点での問題の解決にはなっていませんよね。その時、相談するなり、自分で空調のコントローラを操作したりしてはいかがですか?皆と合意を得て、自主的に動いていいのですよ。」と一言添えるだけでずいぶん変わって来るはずです。

学習は何のためにしているのか。

1日でも早く、現場で「使える人材」になるためです。

だから、必要以上に「至れり尽くせり」をしてはいけない。

人事部や研修講師が受講者に対して「至れり尽くせり」をすればするほど、実は、受講者(=新入社員)の成長を妨げてしまいます。

彼ら・彼女らをスポイルすることにつながるのです。

何か言われると年長者として、つい手を差し伸べたくなります。転ばぬ先の杖を差し出したくもなります。だけれど、誰のためにもなっていないことが多い。

新入社員研修は、何のためにあるのか。

新入社員自身にその意味を考えさせることも大事ですが、その前に、運営側がまずよく考え、心しておかねばならないことだと思っています。

2011年3月29日火曜日

社内講師の心得(3) 講師は完璧であるべきか?

社内講師向けシリーズの3回目。

今日は、「自分も知らないこと、わからないことを質問されたらどうしよう?」という疑問にお答えします。

これは、社内講師だけではなく、配属先の職場の先輩、OJTトレーナーも共通で抱える悩みというか、疑問、不安だと思います。

答えを先にお伝えすると、

「わからないことを質問されたら、調べて答えればよい」
「調べてもわからないことがあったら、”ごめんなさい。これとあれを調べていみたのだけれど、わかりませんでした”と言えばよい」
「もし、誰かが知っている、何かを見ればわかるはず、と予測が立つなら、それを紹介するだけでもよい」

です。

新入社員は、案外ソボクな疑問を何も臆することなくぶつけてくる。

もちろん、先輩も講師も、新入社員よりはうんと経験があるので、たいていの質問・疑問には答えられる。だけれど、中には、「いやあぁ、それは考えてみたこともなかった」「なるほど。そういう疑問も湧くのかあ・・・」と驚くようなものがある。

先輩だからといって、講師だからといって何もかも完璧に知っているわけでも、あらゆることを体験しているわけでもない。調べてみたけれど、やはり、わからない。

当たり前すぎて、そこまで詳しく書いてある資料が見つからないこともある。
自分以外の誰がそれに詳しいかもわからないケースもある。

そうしたら、もう正直に言うしかないわけです。

「ごめんなさい。調べてみたけれど、わかりませんでした」と。

ただ、その時、「何を調べてみた」「どういう調べ方をしたか」を伝えるのは重要です。

「そうか、そういう調べ方をすればよいのか」という情報だけでも、受講者には役立つからです。

一番いけないのは、誤魔化すことです。

「ああ、そんなこと、疑問に思う必要ないから」「それ、知らなくても、できるから」と「探究心や向上心」を削ぐような表現もダメですし、「これは、こうだと思います」と適当に回答するのもよくない。

わからないならわからないと言っていい。もちろん、誠意を示して、ですけれど。

新入社員は、こういう時の講師(つまり先輩)の「振る舞い」もよく見ています。

どのような質問にも回答できるに越したことはありませんが、完璧な人はいませんから、わからないことだって多々あります。

新入社員にとって社内講師は、職場の先輩でもあります。

「質問に答える」ことよりも「あらゆる場面での”あるべき”振る舞い方を身をもって示す」ことのほうが、重要な気がします。

2011年3月25日金曜日

社内講師の心得(2) 行間を補わない

4月入社の新入社員向けに研修講師を担当する方に向けて、「社内講師の心得」、今日は第2弾です。

今日のキーフレーズは、

「新入社員(受講者)の言いたいことを先読みしすぎない」
「新入社員(受講者)の発言の行間を埋めない」

です。

たとえば、こんな会話があります。

講師:「学生と社会人との違いにはどのような点があると思いますか?」
新入社員:「時間の使い方が異なります」
講師:「そうですね、時間の使い方が違いますよね。学生の時は、ある程度自由に時間が使えたでしょうが、社会人になると、拘束時間も長くなりますし、自由に使える時間は限られてきますよね」
新入社員:「・・・」

これ、どう思いますか?

「時間の使い方が異なります」と新入社員が回答したら、それを受けて、講師が自分の考え、用意しておいた答えで補足しつつ、話を進めています。

この間、新入社員は、講師の話を拝聴せざるを得なくなります。

こういう時、講師は行間を勝手に埋めてはいけないのです。

先の会話であれば、こんな風にするのが理想的。

講師:「学生と社会人との違いにはどのような点があると思いますか?」
新入社員:「時間の使い方が異なります」
講師:「なるほど。時間の使い方が異なると思うのですね。たとえば、何の時間の使い方が、どのように異なると思いますか?具体的に例を挙げてください」
新入社員:「ええと、たとえば、朝必ず9時に出社しないといけない。学生だったら1限目は自主休講ができましたけど」
講師:「約束の時間を守る、といった点が異なると思うのですね。他には?」
新入社員:「それから、自分で自由に使える時間が少なくなるように思います。自由に使えない時間に何をどれだけこなすかというのも大切になるかも知れません。」
講師:「自由に使えない時間とは、どういう時間を指していますか?」

・・・

行間を読まない。相手が発言していないことを講師の言葉で補わない。

とても大切なことです。

学習者には、「自分で考えて、自分の言葉で表現させること」が重要。

そういう力を身につけるための支援をするのが講師の役目なのです。

2011年3月24日木曜日

社内講師の心得(1)

いよいよ来週から4月です。以前もこのブログで書きましたが、今年のカレンダーはなんとも厄介で、4/1が金曜日なのですね。

たぶん、多くの企業で4/1(金)に入社式を行い、土日の休日をはさみ、新入社員研修が本格的にスタートするのは、4/4(月)ではないかと思います。

当社は、様々な企業で働く方たちの学びを支援しているのですが、一方で、多くの企業で、私たちと同じような「講師」をしている方たちの「講師スキル」を高めるための研修も実施しています。

その中でこの1月~3月に期間限定で開催したのが、「社内講師養成速習コース」でした。(1日コース:すでに最終回が終了)

勤務先で迎える2011年度新卒新入社員向けに新入社員研修を担当する、いわゆる「社内講師」の方が集まりました。専業よりは、単発で1-2コース担当する方、あるいは、ある30分くらいの小さなコマを担当する方がほとんどでした。

研修の中で、「社内講師として新入社員研修を担当するにあたり、何が不安、疑問ですか?」と問い掛けると、たとえば、以下のような課題が挙がりました。

●新入社員には大きなレベル差がある場合が多い。そのレベル差はどうやって吸収すればよいのか?
●自分にも答えられないようなことを質問されたらどうしたらいいのだろう?
●新入社員とはどのような接し方をすればよいのだろう?たとえば、講義中と休憩時間では言葉遣いを変えたほうがよいのか?
●新入社員に「宿題」を出してもよいものだろうか?自宅でやってきなさい、というようなことはOKなのか?
●2-3人を相手に話すのはまだいいのだが、20人30人と大勢が一クラスにいたら、上がってしまって、声が小さくなる。どうすれば堂々と話せるだろう?

・・・ほかにも沢山ありましたが、「ああ、なるほど」と思う内容ばかりです。

上記の中で、今日は、1つだけ取り上げます。

●新入社員との接し方

です。

ご質問の主旨はこういう内容でした。

「講義中と休憩時間や講義後の夕方まで、”ですます”で話すと、新入社員の緊張がほぐれず、ずっと硬い雰囲気のままになってしまうのではないか。After5や昼休みなどは、少しラフな言葉遣いをしてもよいかも、と思うこともある」

こういうことについては、まず各社各様にルールやスタンス(姿勢)があると思うので、そのルールやスタンスを決めて、社内講師を担当する方が全員そのルールやスタンスに則って行動すればよいことではあります。

ただ、私は、

●講義中であろうと休み時間であろうと、基本的には「ですます」でよいのではないか?
●多少言葉が崩れたとしても、タメ口をきくほどラフにならなくてもよいのではないか?

と思っています。

なぜならば。

講師というのは、たとえば、Java(プロミング言語の一つ)を教える講師であっても、Javaという技術を伝えるだけの役目を負っているのではなく、「社会人の先輩」として背中を見せている側面もあるからです。

社内講師の場合は、「講師」でもあるけれど、「職場の先輩」でもある。

その「職場の先輩」が仕事中にどのような言葉遣い、立ち居振る舞いをしているか、大げさに言えば、その一挙手一投足を新入社員は見ているわけですね。

なので、

●講義中は、「ホワイトボードをご覧ください。ここに書いたように・・。これは、・・・という理由からです」と丁寧に話しつつ、

一方で、

●休み時間になると、「何言ってんだよぉ?それ、ダメじゃん」などとラフな言葉を使う

・・・のはあまりよろしくないと考えるわけです。

もちろん、「ラフ」にも程度があって、

●休み時間に、「田中さーん、今日、新宿駅でこんなものを配ってたんですよ」と新入社員に話しかけられ、「へぇ、これ、面白いですね」とか「ふーん、私はもらえなかった、ザンネン」という程度の軽い口調ならいいとは思いますが。

こういう細かい疑問は、社内講師として立つ方に数多くあると思うのですが、一つ一つにノウハウがある、というより(もちろん、ありますが)、まずは、

「何のための新入社員研修なのか?」という根本の「目的」を考えてみてはどうかな?と思っています。

2011年3月23日水曜日

ITproヒューマンスキル往復書簡 田中淳子⇒芦屋広太さんへの手紙公開(3/23)

おはようございます。まだまだ余震が続き、計画停電の関係で交通網も乱れています(東京都)が、少しずつ、日常生活のペースもつかめてきました。(元通りというのではなく、今の状況に合わせて、という感じですが)

さて、震災の関係で1週間公開が延期になっていたITproの連載、本日3/23(水)、公開されました。

ITpro ヒューマンスキル往復書簡 田中淳子←→芦屋広太(さん)
第2回:企業を超えて人を育てる

1回目の芦屋さんから私宛の手紙へ、私からの返信というスタイルです。

この話は、2007年9月ごろ、ある企業でお聞きした実話です。多少アレンジしていますが、スゴい人がいるもんだなあ、と感動したことを覚えています。

お読みになると、「こういうことをおっしゃるのは、年長者に違いない」とお思いになるかもしれません。私も、話をうかがったときは、「その方、50代ですか?」と尋ねてしまいました。

ところが、なんと、「30代だ」というのです。「オレに任せろ」とおっしゃった方がです。

それを聞き、二度驚いたのでした。

お読みいただければ幸いです。


田中淳子

2011年3月22日火曜日

誰かに話したい。誰かと共有したい。

地震明けの先週14日(月)から開始のコースはすべてキャンセルとなってしまいました。ご来場くださった皆様には多大なるご迷惑とご不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

さて、15日(火)からは無事開催していますが、今度は受講予定の方が「自宅待機」「出張許可下りず」などの理由からなかなか来場できない状態になっているようで、当日まで「参加者名簿」が確定しない、というような状態で1週間が過ぎました。

私は、「ビジネス・ファシリテーション」2日間を担当しました。参加者は9人です。

普段なら、短時間で終了する自己紹介が、全く終わりませんでした。皆さん、口々に「どこで震災にあったか」「どうやってあの日は帰宅したか、あるいは、帰宅できずにどう過ごしたか」「家はどうなっていたか」「家族や親族は」といった話で止まらないのです。

東北の状況とはもちろん異なります。

でも、誰もが、あの瞬間とその後を体験しています。ことの大小は関係ないのです。

誰もが話したい。
聴いてほしい。
そして、
「そうそう、そうだったよね」
「そうなのよ、うちもそうなの」
と共感したい、共感してほしい。

その先にあるのは、「すっきりした」「ほっとした」。
自分だけじゃないんだ。
自分も大変だったけど、同じ体験をした人がここに沢山いる。
これだけで、癒される。

関東だから、ということもありますが、自己紹介の最後は、「人間、なんとかなるもんだ、と思った」「サバイバルしたんだから、これからも前向きに行こう」という締めくくりでした。

もっと辛い状況の方がこの話を聞けば、何のんきなことをいっているんだ、とお叱りを受けるかも知れません。でも、誰もが自分のことしか「私は・・・」という主語で語れないし、それを語らないと、一歩を踏み出せないのだと思うのです。

いつもより長い時間を自己紹介に費やしましたが、そのことも手伝ってか、なんだか強い連帯感で結ばれた9人の受講者の皆さん。

「仕事で使う”ファシリテーション”のスキル」も複数の演習を通じて学び、職場に持ち帰ってくださったようです。

「予測できない大規模停電が起きるかも」という騒動もありましたが、無事18日(金)に解散できて、本当によかった。

照明をかなり落としていて暗いですし、暖房が切れいていて寒いですが、本当に「ようこそ、おでかけくださいました」です。

・・・・

こんな時だからこそ、人と語り合う。心の緊張を解きほぐす。公開講座は、利害関係がほとんどない人同士の集まりだから、かえって自由に話せてしまい、癒し効果が高い面もあるかもしれません。

2011年3月18日金曜日

「当たり前」に感謝

2011年3月11日午後発生した東北関東大震災の被災者の方々、ご家族の皆様には、心からお見舞い申し上げます。また、お亡くなりになった方へ哀悼の意を表します。

行方不明の方が一刻も早く救出され、あるいは、避難所生活から日常に少しでも早く戻れますようにと祈るばかりです。

当日、名古屋であの地震の揺れを体験した身としても、その大きさに驚きましたが、東北で被災した方にはどれほどの恐怖だったことでしょう。家族は?自宅は?と不安に思いながら、ようやく13日(土)の夜に帰宅しました。幸い全員無事でした。

本日久々にオフィスに出社し、新宿でも隣のビルが揺れていたほどだったと聴きました。

多くの方が恐怖と不安を感じながら11日を過ごしたことでしょう。そして今も戦っていらっしゃることと思います。

映像を見ると胸がつぶれる思いがします。これが現実なのか、と。

東京は計画停電が、17時に始まるというNEWSが流れています。停電くらいなんてことはありません。互いに譲り合って、その電気で救助や復興に役立つのであれば、皆で少しの間、じっとしていればよいのです。

日ごろ、色々なことが「当たり前」過ぎて感謝することも忘れていました。

家族がいること。
たまに口うるさいと思う親がいること。
楽しくご飯食べたり遊んだりできる姉妹親戚がいること。
ケンカできる友がいること。
話を聴いてくれる友がいること。
住む家があること。
働く場所があること。
一緒に笑ったり怒ったりできる職場の仲間がいること。
時々は難しい注文もつけてくださるお客様がいらっしゃること。
蛇口をひねれば水が出ること。
スイッチ押せば電気が点くこと。
ボタン一つでお風呂が沸くこと。
毎日定刻に電車が走っていること。
どこへでも行こうと思えば行くことができること。
駅から家まで一人で歩いても怖くない程度の街灯があること。
お店に行けば、なんでも売っていること。
家にいても色々な情報が手に入ること。

・・・・

数え上げたらキリがない、これらの「当たり前」は、「当たり前」ではなかったのだと。

多くの方に支えられて実現している数々のこと。改めて感謝の気持ちが湧いてきます。昨日は、「お湯が沸いた、ありがとう」と思わずガス台に向かってつぶやいてしまいました。

多くの「当たり前」を支えてくださる方たちへ感謝。
そして、これからの生活に向けて祈りを捧げます。

2011年3月4日金曜日

電車の中で席を譲った、素敵なお話。

世間的には、「カンニング」事件が喧(かまびす)しいわけですが、そんなこたあ、どーでもよろし。

体罰よりも、マスコミに叩かれるほうが何千倍も痛いぞ、と思うし、本当に社会に「寛容さ」がなくなってきたなーと思ったりもし。(社会というより、マスコミなんだけれども)

あ、でも、ホントに、そんなこたあ、どーでもよろし。

今日は、「ハートウォーミング」なお話を。朝イチメールが続いていたならば、絶対に書いていたであろうエピソード。

先日、同僚(40代男性)が夜の小田急線に乗ったそうです。

疲れていたのでロマンスカーを、と思ったものの満席続き。だったら、急行を何本か待ち、座って帰ろうと。25分も列の先頭で待ちわび、やってきた急行に座って、一安心。彼は新宿から藤沢まで1時間超も乗る「ヘビーユーザ」です。

さあ、あとは新聞でも読んで、居眠りして・・・と頭の中で段取りを組んでいたら、目の前に立つ女性が。なんとはなしに見上げると、気のせいかお腹の辺りが膨らんでいるような。

『ああ、ただの太った人でありますように』と祈りつつ、バッグを見ると、ピンクのマタニティマークを発見。

現在、同僚に妊婦がいる彼は、ことのほか関心も高く、『これ、席を替わらないとまずいよなあ』と思ったものの、『25分並んで、ようやく座って、この車両のたった一人立っている人が妊婦さんで、そのたった一人がボクの前に立っているなんて・・・』と思ったりもしたそうです。(このあたりの心境、とてもよくわかります)

しかし、やはり!と顔をきりっと上げ、妊婦さんに向かって、「席、替わりますよ」と声をかけました。

すると、この妊婦さん、すぐ「ありがとう」と座ることもなく、「失礼ですけど、どちらまでいらっしゃる予定ですか?」と尋ねたんだそう。

「ボク、藤沢までですが」
「あ、私も藤沢までですが、終点まででは申し訳ないので、ホント、結構です、大丈夫ですから」と固辞されたとか。

きっと、彼女は、「成城学園前まで」とでも言われたら、替わってもらうのもいいかな、と思ったのでしょう。

同僚は、引っ込みもつかず、いや、もちろん、妊婦さんのことも思いやった上で、「いえ、そんなこと言わずにどうぞ」と席を替わったそうです。

そこから1時間以上。藤沢まで残り数駅、というところで、彼女の隣が空いたので、「どうぞ、座ってください」と同僚に勧めてくれました。

「いや、もうすぐなんで、いいです」と断ると、「それでは私の気がすみません!」と泣きそうな様子で懇願。

「じゃ、座ります」同僚は、妊婦さんと並んで座ることに。で、会話をしていると、
「久々に用事があって電車に乗った。藤沢に行く電車かどうかも不安だった」なんてことから始まり、
「今日、友人と会い、お菓子を2箱もらいました。この1箱をお礼に受け取ってもらえませんか?」
と差し出したそうです。

「いいですよ、気持ちだけで」とまたもや固辞した同僚。

妊婦の彼女は、「お願いですから、受け取ってください。気持ちですから」とあまりに強く訴えるので、同僚も「それなら」と頂戴したんだそうです。

「席を譲っただけでお菓子を1箱頂いたのは、生まれて初めて」と翌日オフィスで話してくれました。

この話をじっと聴いていた、現在妊娠中の私たちの同僚が、

「●●さん、とてもいいことをなさいましたねー。」とやたらと感心。「妊婦としては、本当に助かるんです。電車、怖いんです」と。

私は私で、その逢ったこともない妊婦さんのことをとても素敵だなぁと。

自分の身体のことだけで精一杯な時でしょうに、「どちらまで乗るのですか?」と確認したり、「ほんの気持ちです、もらいものですが、せめてこのお菓子を」と差し出したり、とても心豊かな女性だなあ、と感動しました。

夜の小田急線車内でのほんの小さな出来事。たった70分くらいの物語。

たまには、こんなお話もいいのではないかしらん?

というわけで、TGIF! よい週末を~♪

2011年3月3日木曜日

舌打ち。

最近、通勤車内でたびたび耳にするのです。「チッ!」という舌打ち。

それが耳元だったりすると、「え?私に向かって?」と思い、心当たりがあろうがなかろうが、心臓がバクバクします。

先日は、女性に「チッ!」とされました。

非常に混雑している朝の通勤電車。私より先に乗り込んだ女性が、ドアのところに、ホーム側を向いて立ったのです。ドア1枚分は彼女が立ちはだかった状態。

『あれぇ~、まだ、乗り込む人、いるのに』とは思ったものの、お互い様だ、と思い、えいっと乗り込みました。

その時、この「仁王立ちしている」女性に私のバッグがひっかかり、少しだけ力を入れて、すっと自分のほうに引き寄せたのです。「ゴメンナサイ」と言いつつ・・。すると、いきなり、

「チッ!」と大きな音で舌打ちされまして。

『バッグが引っかかったのは悪かったけれど、ドア1枚分の幅を取り、まだ乗る人もいるのに、踏ん張って動こうとしないあなたは悪くないのぉ~?』と思ったのですが、まあ、心臓バクバクするし、危害を加えられても困るし、で、次の駅でその人から離れた場所まですすっと移動しました。

別の日。

座っている男性(60歳くらい)の脚を誰かが踏んだか、ぶつかったかしたらしいのです。すると、大きな音させて、

「チッ!」さらに、ぶつかった側の若い男性にむかって、「足がどーしたこーした」と文句まで言っている。

その60歳がらみの男性は、足を少し前に出していたのですよ。踏まれたりしてもしょうがない場所に。(膝が悪くて、それ以上、足を引っ込められなかったのかも知れませんが)

大混雑で少しぶつかったくらいで、文句まで言うものかなあ、と、なんだかゾクっとしてしまいました。

・・・・と2つの例を挙げてみましたけれど、本当に最近、通勤車内でよく聴くのです。何度も。

「チッ!」

これ、心臓に悪いし、気分もよくないし・・・。でも、考えてみたら、スゴイことだなあ、と思うようになりました。

私は、「チッ!」ってできないんです。練習してみたんですが、とっさに出てくるまでには、ずいぶん練習が必要です。(自宅で試してみました)

とっさに、大きな音で「チッ!」ってできるのは、スゴイ鍛錬のたまものです。

しょっちゅうやってないと劣化しそうなスキルです。

ってことは、ドアに立ちはだかった若い女性も足出してた60代の男性も日ごろから何度も「チッ!」とやっているに違いありません。

しょっちゅう、「チッ!」と言う日常、ってどんな日常だろう?
自然に大きな音立てて、「チッ!」と言うのって、心のナカに何が渦巻くのだろう?

・・・・・

そんなことをつらつら考えていると、別に腹も立たないし、なんだか面白くなってしまいました。

日常で、少しだけ心にトゲが刺さりそうな出来事に遭遇した時、その背景などを色々面白く想像(妄想)している内に、出来事自体はどーでもよくなることがままあります。

触らぬ神に祟りなし、ではありますが、触られちゃったら祟られる前に、「妄想」。

これ、オススメです。

2011年3月2日水曜日

新連載:芦屋広太さんとの往復書簡(ITpro)

日経BP社のWebサイトITpro上にて連載を始めました。

ヒューマンスキルの分野では知る人は知る(←当たり前)、芦屋広太さんとの往復書簡風のエッセイ連載です。

芦屋さん先攻でスタート。

【ヒューマンスキル往復書簡 田中淳子←→芦屋広太】

第1回:「伸び悩んだ部下が少しだけ壁を越えた」 (芦屋広太さん→田中淳子)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20110222/357504/

このお手紙に返信する内容で、次は、田中淳子→芦屋広太さん・・・です。このやりとりは、今後、数ヶ月続く予定です。

感想など、ITproのサイトからでもOKですし、Twitterでもお待ちしております。

★芦屋広太さんTwitterアカウント
http://twitter.com/hongojk

★田中淳子Twitterakアカウント
http://twitter.com/TanakaLaJunko

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日経BPモバイル朝イチメールの連載終了が2010年7月でしたので、半年ぶりにまた日経BP社でお世話になることに。

2002年にスタートした執筆活動は、以下の変遷を遂げております(笑)。


「日経ITプロフェッショナル」(2002~2006)→
「日経SYSTEMS」(2006)→
「日経コンピュータ」(2007~2009)(ここまでは、紙の雑誌)→
「日経BPモバイル朝イチメール」(2009~2010)(携帯メールonly)→「ITpro」(2011)(Web)

なんとなく、この変遷が面白い…。

2011年3月1日火曜日

入社まで1ヶ月:内定者に勧める5つのこと

3月になりました。今年ももう1/6が終わったわけで、本当に早い、速い、ハヤイ。

今年は4/1が金曜日、というなんだな妙なカレンダーなので、4/1に入社式を迎える企業は、すぐ土日が休みになり、新入社員もいきなり「休みだ」という感じで、気が引き締まるのだか、引き締まらないのだか。

そのためかわかりませんが、3/28あたりに入社式をしてしまう企業もあるやに聞きます。

ま、それはそれとして。

あと1ヶ月。

企業としては、新卒を迎え入れるまであと1ヶ月。
内定者からすれば、社会人というものになるまであと1ヶ月。

私が新・社会人になったのは、86年。25年前のことですが、入社前の1ヶ月、何をしていたかなあ、と思い出してみると、

●卒業旅行と称して、国内と国外とに行っていた(2-3月の間のちょこちょこ)
●ビジネスマナーだったか敬語だったかの本を読んだ
●元から朝型ではありましたが、生活を整え始めた
●出勤できる洋服を買った
●お祝いを下さった色々な方にお礼状を書いた

なんてことだったような気がします。

あとは、なんだかあっという間に入社式が来てしまったような・・・。

そんなわけで、今日3月1日。

今、入社を待つばかりになっている内定者の皆さんに何かアドバイスをするとしたら・・・を考えてみました。

【内定者に贈る”入社前にしておくとよいかも?”5つのこと】

1. 仕事ってどんなもの?会社ってどういうところ?を両親や親戚や先輩や近所のおじさん・おばさんなど、いろんな人に話を聞いてみる
→ 入社して、一気に拘束時間も長くなり、研修で疲労もたまり、配属されたら「あれ?」と思うことも増えるかも知れませんが、多少なりとも職業のイメージ、会社というもののイメージを持っていたら、そのあたりの違和感は減るような気がします。

2. とにかく朝型に、そして、かならず「朝食」を食べ
→ 12時までには寝る。遅くとも6時台に起きる。そして、「朝食」を摂る。これが生活のリズムを整えるのに役立ちます。先日もある企業のリーダーの方がこうおっしゃっていました。「後輩には、まず”朝食を摂れ”と言っています。それが結局、時間管理にもつながるから」と。つまり、こういうことです。「朝ご飯を食べる」→「午前中から調子がよい」→「仕事の効率が上がる」。生活のリズムが整っている人は、風邪の引きにくいので、結局、「休みがちで迷惑をかけてしまう」という事態もまぬかれるともおっしゃっていました。なるほどです。

3. 新聞を読む習慣をつける→ 新入社員に「新聞を読んでいる人?」と聴くと1割か2割だったりします。企業によっては、「日経新聞の読み方」という講座を4/3くらいに開講するところもあります。新聞、読みましょう。世事に疎いというのは良くないのです。見出しの拾い読みでもよいのです。「新聞を読む」という行為を習慣付けることから始めてみてはいかがでしょう?

4.たった1冊でよいので「ビジネスマナー」の本を読む
→ そんなの新人研修でやるんでしょ?やってくれるんでしょ?と思うかも知れませんし、実際にたいていの企業では「ビジネスマナー」講座はあります。ありますが、基本的な知識を知っていると知らないとでは受講する時の吸収度合いが全く異なります。尊敬語と謙譲語がわからないまま新社会人になるのはやはり、時間ももったいない。多少の予習はしておきましょう。(案外、面白いものですよ。「へぇ、席次ってこういう風に決めるのか」とか「他社の方の前では、上司は呼び捨てにしていいのか」とか。)

5.国語辞典を用意する
→ 学生時代に使っていたもので構いません。紙でも電子でも。手元に国語辞典を用意して、新聞や本を読む際、TVを見ている際、わからない言葉、言い回しが出てきたら、さっと調べることを始めてみましょう。入社すると「これでもか」というほどに色々な文章を書くことになります。「研修の受講報告書」「何かとレポート」「電子メール」・・・。こういう文章でよく見かけるのが、「適当に書いたと思われる妙な漢字」「意味すら不明な言葉」・・・です。ちょっと調べたらすぐわかるのに、というようなものが多い。インターネットの辞書があるじゃない、と思うかも知れませんが、入社して新入社員研修が始まると、すぐPCが使える環境とは限りません。語彙力が足りないために苦労している新入社員はとても多いのです。辞書で調べることも癖付けておくとよいですよ。

色々な企業で新入社員研修に携わっていますが、案外基本的なことが成長のネックになっていることに気づきます。

●生活習慣が整っていないことによる、午前中の不調、体調不良など。
●日本語の力が弱いために、上司とうまく会話が成立しない、とか、文章を何度もつき返されるとか。

専門的な知識や技術、業務遂行のための様々な能力を身につけるためにも、「基本」が大事です。

でも、「基本」が大事だ、というのは案外、入社して数年経って始めてしみじみと実感するものだったりもするのですよね。