2010年1月23日土曜日

旧ブログ記事:美味しそうねぇ。(2010年1月23日掲載)

高校生の時だったか、クラスメイトと水族館に行ったことがあった。遠足だったのかなあ。なんだろう。

で、仲良しのNちゃんとで並んで水槽を見て回っていると、後ろから「これは鯛。美味しそうねぇ」「こっちはイカよ。美味しそうねぇ」という声が聞こえて来た。

振り返ると小さい坊や(幼稚園児か)を連れたお母さん。 坊やに魚の名前を教えると共に、必ず「美味しそうねぇ」と添えるのだ。

Nちゃんと私は、「水族館で、”美味しそうねぇ”ってのはないよねぇ。情緒ないよねぇ」とくすくす笑った。

つい先日、ラジオを聴いていたら、パーソナリティの女性が「水族館に子供達を連れて行って、生きて泳いでいる魚を見せるのは、”食育”になるからとてもいいことだと思う。うちはやっている」なんて話をしていた。

『ああ、そういう意味もあるのね』と、この30年前のお母さんを思い出した。

そういえば、これは、大学生の時の話だけれど、教育学科にいたので、先輩から「教育関係」のアルバイトが降りてきたことがたまにあった。

印象的だったのが、「幼稚園のお受験塾」のアルバイト。

模擬試験の試験官を担当した。 面接で子供(4-5歳児)に決められた質問をし、答えによって点数をつけていく仕事だ。

「お名前は?」
「◎◎×子です」
「はい。よくできました。では、お魚のお名前を5つ言ってください」
「ええと、サケとぉ、マグロとぉ・・・」

と子供が答える。

たしか、5個正答なら、5点。 4個なら4点、と点をつけて、次の部屋へ送り出す、といったものだったと思う。

何人目かに、全身白いフリフリのお洋服を着せられ、お人形ハウスから飛び出てきたようなお嬢ちゃんが入ってきた。 控え室で見かけたママは、ブランド物で身を固めたゴージャスな雰囲気。

ラブリーお嬢ちゃんに質問する。

「お魚のお名前を5つ言ってください」
「タイとぉ、マグロとぉ・・・」(高級方面が連なる)と言ったのだが、5つ言い終わる前に黙り込んでしまった。

練習してきただろうに、上がっちゃったのかな。

しばらく考え込んでから、顔を上げ、 「あ、あと、白身のオサカナ!」 と元気よく答えた。

「白身のオサカナは、どういう種類かな?」 と一応尋ねてみたが、「白身のオサカナだもん」といった回答だった。

「白身のオサカナ」は、正解なのか不正解なのか、迷った挙句、”?(白身のオサカナ)”とメモして、責任者に書類を回した。採点がどうなったかは記憶していない。

あの時の5歳児はもう30歳くらいになっているだろう。

冒頭の水族館。「美味しそうねぇ」を連発していたお母さん。

今思えば、意義のあるせりふだったのだなあ。 魚は切り身で泳いでいると思っている子供は、25年前よりさらに増えているかも知れない。

あの時、くすくす笑って、ごめんなさい。

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